天界闘士ハーマイン
最終話「怒闘〜Maybe I'm a Lion


[今までのあらすじ]
世界の危機を起こしていた四天王を倒し、
更に、四天王を裏で操っていたアルコーンも倒した、ハーマインとマヤの姉妹。
そして、ふたりは奇妙な塔の最上階に立っていた。


「ここが、塔の最上階なのかニャ?」
「・・・何故か、生活感があるのが引っかかりますけど」

辺りを見渡してみると、
中央には少し程度の林が並び、左側に丸いテーブルと丸い椅子、
その反対側にはベッドが並べられているのが見えた。

そして、中央奥から人影が見えてきた。

「やっときましたね。おめでとう!」
突然、シルクハットをかぶった紳士風の男性姿が現れた。

「貴方は、・・・確かノリスKさんでしたっけ?!」
「そうです、君たちに色々アドバイスしたノリスKですよ。」
「お兄さんのおかげで、先に進めることが出来ましたニャ。感謝してるのニャ〜♪」
「いえいえ、感謝したいのはわたしの方ですよ」
「えっ?!」「ニャっ?!」

その言葉を聞いたハーマインとマヤは身構えた。
心なしかノリスKから殺気に似た何かが感じ取れたからだ。

「このゲームを勝ち抜いたのは君たちが初めてです」
「ゲーム?」
「私が作った壮大なストーリーのゲームです!」
「お兄さん、何を言っているのニャ??」
「私は平和な世界に飽き飽きしていました。そこでアルコーンを呼び出したのです」
「ノリスさん、何を考えてるのっ?!」
「アルコーンは 世界を乱し面白くしてくれました
だが それもつかの間の事、彼にも退屈してきました。」
「まさか・・?!」
「そう!ゲームです!!私は悪魔を打ち倒すヒーローが欲しかったのです!」
「あんた、何様のつもりニャ!!!」
「何様のつもり・・・、だと?
フフフフフ・・・ハハハハハハ!!!」

ノリスの姿が徐々に変化していく。
獅子の顔を持ち、ヘビを巻きつけ、翼を持つ異形の姿へと・・・。
「・・・我は神だ!」

ハーマインとマヤは驚きを隠せなかった。
「か、神様だったニャんて?!」
「なにもかも貴方が書いた筋書きだったというの?」

“神”と名乗る異形の者は高笑いをしながら答えた。
「なかなか理解が早い。全ては我が組み込んだシナリオなのだ」
「多く者たちが消えていく宿命だったのも、貴方のシナリオだというのっ?!」
「そうだ」
「じゃあ、世界中が不況になったのも」
「それも我だ」
「政治の腐敗や企業の偽造問題も」
「それも我だ」
「某大作ゲーム9作目が、発売延期になったのも」
「それも我だ」
「昨日、スーパーで1パック190円の卵を買ったら、
すぐに近くのスーパーの方が185円とお得だったのも」
「それも我だ」

ハーマインは確信した。
「貴方は・・・少なくとも全知なる神ではないわ・・!
なぜなら、昨日買い物なんてしてないもの」

異形の者は一瞬顔を青したが、言い返した
「う、うるさいっ!貴様が誘導尋問したからではないか!
我は妬む神である!我のほかに神はいないっ!!」
「あんたバカなのかニャ?他の神様がいないのなら、ジェラシーになる必要ないはずニャのに・・・」

異形の者は、狂気に満ちた笑いを浮かべ、ふたりを見下した。
「神にバカにするとは・・・、どこまでも楽しい人たちだ。
   これも生き物のサガか・・・・。
よろしい、死ぬ前に神の力をとくと目に焼き付けておくがいい!!
このヤルダバオトに裁かれる事を光栄にすら思うがよい!!!」

「マヤ!これが最後の闘いよ、気を引き締めて!!」
「分かってるニャ!!」

ハーマインとマヤは魔法を詠唱し始めた。
「聖なる光球にて、我の敵を裁かん “ホーリーブラスト”!!」
「流星群きてニャ〜〜!!“メテオスウォーム”!!」

ふたつの最強魔法がヤルダバオトにヒットした。
・・・が、ヤルダバオトの体には傷ひとつ付いていなかった。
「フハハ、その程度の魔力では痛くもかゆくない・・・。」

ヤルダバオトは両腕を天に掲げて叫んだ。
「罪なる子らよ、悔い改めよ!!」

ヤルダバオトの放った精神攻撃で、ふたりはクラクラしている。
「おねえちゃんのおやつを勝手に食べてごめんニャさい〜!」
「クッ・・・、こんな事で倒れるわけには・・・ウウウ・・・」

ヤルダバオトは少しだけ驚いた
「さすが、ここまで来ただけのことはあるな。
・・・だが、精神攻撃は耐えられても、物理攻撃はどうだ?」
ヤルダバオトは左手から波動を放った。

「おねえちゃん、あぶないニャ!」
いち早く気づいたマヤは、飛び込んでその攻撃を正面から受けた。

「マヤ!」

ハーマインの代わりに攻撃を受けたマヤちゃんはその場に倒れた。
「お・・おねえちゃん、おねえちゃんが無事でよかった・・・ニャ」
「何言っているの・・・?!無茶な事して・・・!!」
ハーマインの目からは大粒の涙が溢れ流れた。

「大好きなおねえちゃんだからこそ・・、命を懸けてでも守りたかったのニャ・・・」
そういうと、マヤはまぶたを閉じて、動かなくなった。

「・・・!マヤ・・・!!マヤ・・・・!!!」

その様子を見ていたヤルダバオトは高笑いした。
「死すべき運命を背負ったちっぽけな存在が、必死に生き抜いていく姿はやはり素晴らしい。
さあハーマインよ、もっと足掻け!足掻いて、我をもっと感動させたまえ!!!」

ハーマインは、その言葉についにキレてしまった。
「私たちはあなたのモノじゃない!」

その叫びと呼応するように、ハーマインの周囲からは恐ろしいまでのオーラが発生した。
「・・・これだけは使いたくなかった。
けど、私の大事な妹を殺した、あなたを許すわけには行かないっ!!」

オーラは更に高まった。
オーラに包まれたハーマインの姿は徐々に変化していった。
獅子の如き荒ぶる神と顔、3つの翼、尻尾はヘビへと変わった。
全体的に機械的なデザインではあるものの、
宿敵であるヤルダバオトと奇しくも似たような要素をした姿に変貌した。
しかし、彼女はヤルダバオトとまったく違った点があった。
それは・・・怒りだった。



ヤルダバオトは彼女の変貌に驚きを隠せなかった。
「・・・なななな、何だ、貴様はーー?!!」

全てを威嚇するような鋭い眼光を放ちながら、自称唯一神の方に向かって言い放った。
「私はハーマイン・ザ・ライオネスクイーン!!
穏やかな心を持ちながらも激しい怒りによって目覚めた者・・・!」

ヤルダバオトは恐怖を感じたが、気のせいだと思い、無視して言い返した。
「フハハ、スーパー何とか人もどきになった所で、我を倒すことはできない」

彼は右腕を掲げ、攻撃しようとした、
が、一瞬のうちにハーマインにその腕を掴まれた。
「き、貴様いつの間に・・・・?!」
「私の“アタランテ・ムーバー”のスピードを甘く見ないほうがいい・・・!」

ハーマインは彼の腕を放したかと思うと、瞬時に鋭い爪をむき出しにして襲い掛かった。
「汝は、力の何たるかを知らない・・・。
・・だから、私が代わりに教える。汝の体でっ!!“ストレングス・クロー”!!!」

ヤルダバオトは、その爪で何度も何度も斬り刻まれた。合計で11回ほど。
「ぐぁあああ!!聖なる結界によって守護されている我の体にここまでの傷をつけるとはっ・・!
しかし!貴様はここでゲームオーバーになるのだ!!“フレアー”!!!」

ヤルダバオトは、高熱の炎をハーマインに放った。
普通の生命体なら、一瞬にして灰になりそうな威力だった。
・・そう、普通の生命体だったなら・・・。

「なんですか、その哀れな炎は・・・?」
炎を浴びたはずのハーマインは、火傷ひとつもしていなかった。

「ば、バカな?!この炎に耐え切れる被造物など・・・」

ヤルダバオトが台詞を言い終える前に、ハーマインは反撃を行なった。
「炎とは、こうしてつかうもの!受けなさい!灼熱の太陽の裁きを!!
“プロミネンス・ジャッジメント”!!」

ハーマインの叫びと共に、自身の体が更に高熱化し始め、周囲の景色が歪んだ。
大量の火炎弾が、ヤルダバオトの周囲に撒き散らし逃げ場を封じ、
最後には太陽の如き巨大火球が、ヤルダバオトを飲み込んだ。
これが地上界で使用されていたら、人類滅亡も有り得ただろう・・・。

だが自身を神と名乗るだけあって、ヤルダバオトは滅ぼされるまでには至らなかった。
・・・が、その体は炎に焼かれてボロボロだった。
「くぅううう・・・・。結界すらも破壊するこの炎・・・・。貴様の戦闘力はまさに化け物クラス・・・。
我より・・・、我より強い者など存在してはならない!今度こそゲームオーバーにしてやるっ!」

ヤルダバオトは左右の拳を合わせた。
「喰らえ!無限の力というものを!!“ゴッド・ハンド・インパクト”!!!」

強烈な衝撃波が放たれ、ハーマインにぶつかりそうになったが、彼女はすぐにかわしてしまった。
その光景に、技を放ちへとへとになったヤルダバオトは呆然としてしまった。
「・・・・、我の最強の技が・・・・。神と名乗る愚か者すら屠る無限の力が・・・」

ハーマインはヤルダバオトの方を向き、言い放った。
「愚か者は汝の方・・・。今の私は、太陽神ラーですら暴走を止めるのに手こずった、
セクメト女神の力も借りているのです。例え無限の攻撃力とはいえ、
低位の神が高位の神の力を宿した者を打ち倒す事など出来ないっ!!」

ハーマインの断言した台詞を聞いて、ヤルダバオトは恐怖した。
劣勢に追い込まれるまでの彼なら、まだ何か言い返す事が出来ただろうが、
今の彼にはその言葉は圧倒的な説得力を持っていたのだった。

「低位・・・、我が低位だというのか?そして、貴様の力が高位だと・・・・?」
「そうよ、盲目の神、思い上がった無知なる神よ。
汝は母なるソフィアから生み出された事を知らぬ、傲慢なる王よ」
「そ・・そふぃあ?!何だ、それは」
「・・・哀れね、自分の母親の名を知らぬとは。賢き母は汝にその力を与えてくれたというのに、
それを忘れ、ただひとりの最高の存在だと宣言するとは・・・!」
「・・・嘘だっ!嘘だっ!嘘だっ!そんな者など存在しない!!
我はこの世界を生み出した唯一絶対の創造主だっ!!
そんな者、認めるわけにいかな・・・な・・な」

ヤルダバオトの激しい否定の言葉を最後まで言う事はできなかった。
なぜなら、目の前にいる存在―
ハーマインの力が今まで以上に高ぶっている事を感じ取り恐怖したからだ。

「・・・そんな、分からず屋にはこうしてあげる・・・!!
“ブラッディー・カーニバル”!!!!!」
ハーマインは、両手と両足の爪を鋭く尖らせ、更に牙をよく見せるように咆哮した。
そして、高速でヤルダバオトに飛び掛り、
全く容赦の無い爪による斬り裂きと、噛み付くを繰り返した。

「血・・!もっと血を流せ!血を流せっ!!大量の血をっ!!!
そして、私に浴びせろ!一滴残らず!!
汝の血を飲み干し、汝の肉を喰らい尽くすっーーー!!!!」
「グギャーーー!!ばっ、バカなぁあああ!!
どんなゲームの隠しボスよりも強い我が、チェーンソーなんぞに瞬殺されぬ我が、
なぜ・・・?なぜだ・・・・、ウヴァーーー!!!!!」

ヤルダバオトはバラバラに切り刻まれ喰らい尽くされた・・・。

食事を終えたハーマインは、口の周りの食べかすをペロッと舐めた。
「私の・・・いえ、女神の力を知らなかった汝は、既に負けていたのですよ・・・!」

そういい終えると、ハーマインは急に倒れてしまった。
少しずつもとの姿になりつつ。
「(・・・さすがに、力を使いすぎたようね。
・・・・・ゴメンね、マヤ。仇をとったのはいいけど、
あなたが命を懸けてくれたのにかかわらず、死にゆくお姉ちゃんを許して・・・)」

彼女の両目が閉じかけようとした時、どこからとも無く声が聞こえてきた。
彼女が最も聞き馴染んだ、愛らしい声が・・・。
「おねえちゃん!おねえちゃん!」
「(・・・!マヤ、生きていたのね、良かった・・・・!!)」


「おねえちゃん!おねえちゃんってば!
起きてニャ〜〜!!」

マヤの声に反応して、目を開けたハーマインは、
自分の部屋のベッドの中にいたのだった。

「あんまり起きないから、わざわざ起こしに来たのニャ〜」
「ゴメン、マヤちゃん、昨日ちょっと夜更かししていたのよ」
「それにしても、ニャんだか楽しそうな夢を見ていたのかニャ?教えて欲しいニャ!っ」
「・・・ええと、ひ・み・つよっ☆」
「え〜、ズルイのニャ!はっ!まさか、えっちい夢だったから教えてくれニャいの??」
「違います!・・・まったく、マヤはそういうことばっかり言うんだから。
えっちいのは、ハサ兄さんだけで十分です!」

ハーマインはそう言ってベッドから降りて、洗面所に向かった。
彼女の部屋の机の上には、なにやら分厚くて難しそうな神話の本と、
昔のゲームの攻略本が置かれていたのだった。



[お・し・ま・い]