「奇跡呼ぶB / 迷い猫追うべし」
「フフフ・・・、ついに完成したわよ!」
仮面結社軍のとある研究所。声高らかに笑うひとりの幼女、・・・もとい少女。
黄色いリボンと猫のお面型マスコットを頭につけ、
白衣をまとった彼女の名は、コーナッタ・D・シテー博士。
曲者揃いの仮面結社軍の中でも1,2を争うアレっぷりなため、
人は彼女を「突っ走る奇想変態」と呼ぶ。
そんな彼女でも、傑作のひとつやふたつはあるもの。
その傑作のひとつである、「運命の娘」と呼ばれる少女。その名はフェイト。
彼女は、「銀河の図書館(ライブラリ)」と呼ばれる場所とアクセスできるように博士に改造されたのだった。
「銀河の図書館」とは、銀河中の情報を内包している博士ですら全てを把握していない未知の領域で、
そこに意識を転送する事でありとあらゆる知識を得る事が出来るのだ。
好奇心旺盛なフェイトにとって、この力は興味をかきたてるなので、進んで改造を受けたというわけだ。
改造は成功し、想定どおりの「歩く究極のコンピュータ」というべき存在になったフェイト。
博士もその出来映えにご満悦であった。
・・・が、想定外の緊急事態が発生してしまった!
・・・それは、フェイトの脱走。
突然の出来事に、博士も口癖である「どうしてこうなった・・・」と言って呆然とするしかなかった。
そしてこの度、博士はフェイトの居場所を突き止め、
捕獲するのに相応しいロボット2機を完成させたのだった。
その間に、ハマっているネトゲをやっていたせいで、そこそこ時間を食ったのはここだけの話。
「待ってなさい、フェイト。あなたの居場所はここしかないのだから・・・」
博士はいつになく真剣な眼差しをしていた。
まるで、ネトゲでGETし損ねた期間限定アイテムが再販された時のように・・・。
一方、舞台はイデア連合軍基地周辺。
そこでは、基地の守備を固めるそれなりの数の兵が集まっていた。「それなりの数」なのは、
現在各勢力が月面で「最後の決戦」と称した死闘が繰り広げられているからだった。
一見、居残り部隊と言えそうだが、自軍の基地を守る、という大事な任務を全うすべく奮闘していた。
・・・と言えばかっこがつくのだが、やはり兵士だって人の子だもの。
恐くて月面の一方通行(アクセラレータ)の次元閉鎖空間に挑めない、
という者たちがそこそこいたのだった。仕方ないね。
が、大多数残っていたのは、とふたりを守る親衛隊なのだが。
「ステージの配置は、こんなもんでいいかな?」
「オーケイだ。次は、音響設備の確認に移るぞ」
親衛隊隊員たちは、ふたりのアーティストの為のステージを設立していた。
ナーニャ親衛隊
「イデアの歌姫」と呼ばれたナーナ・オーアルブルと、彼女を姉のように慕うニャーニャ。
戦場ではふたりを守り、ライブでは大いに盛り上げる、
(色々な意味で)訓練されたプロフェッショナルな兵士たちの集まりの総称である。
親衛隊たちと一緒にいるナーナは、
ライブに備えていて、お気に入りの帽子とネクタイをつけてキメていた。
自分たちのステージが完成していく様を見ていて、彼女はふと、とある疑問が浮かび上がった。
「皆の無事を願って、特別ライブをするのはいいけど、
ボク達が最後の決戦に行かなくて良かったのかしら?」
ナーナの疑問に親衛隊のひとりが答える。
「ナーナ姫が乗るモノケロースのサポート力と、
ニャーニャたんが乗るディケロースの戦闘能力は、確かに素晴らしいですよ。
・・・しかし!姫たちは俺たちイデア連合軍、いや、この星-イデア-の希望とも言える存在なんです!
姫たちがここで待っていて歌い踊るこの場所こそ、皆が帰るための道しるべなんです!!」
熱く語る親衛隊隊員の言葉に納得するナーナ。
隊員の言葉に触発されて、他の親衛隊隊員もナーナを激励する。
「ナーナ姫、このライブを必ず成功させましょう!!」
「分かったわ、じゃあ皆私たちに力を貸してねっ♪」
「シャッス!!」
一方、ニャーニャは親衛隊にダンスの振り付けをレクチャーしていた。
「そうそう、その調子にゃ!みんな、要領がいいから教えがいがあるのにゃ〜☆」
彼女の猫のような耳と尻尾は、いつも以上にピコピコしていた。
「ニャーニャたんとナーナ姫の為なら、こんなの目じゃないっスよ!」
やはり色々な意味で訓練された隊員たちと、わいわいやっているニャーニャだったが、
ずっと胸の中に抱えている、ある不安は消しきれなかったのだった。
「(・・・お皿に入れられる食べ物には限りがある。この幸せなこの時も限りがある・・・)」
そんな中、ひとりの隊員が向こうからやってきた。ひとりの少女らしき人物を連れて。
ナーナと隊員たちは彼を出迎える。
「おかえりなさい!
“見回りに行くって”言っていたわりに、結構時間かかったみたいね。
・・・で、横にいる女の子はどちら様?」
隊員がそれに答える。
「こ、これは別に少女誘拐したわけじゃなくて・・・」
余計な事を言ってしまった!と後悔しつつも、
急いで弁解しようとする隊員の声を遮って少女が話し始める。
「案内ご苦労様!ここからは私が話すから」
少女はポーズを決めながら自己紹介を始めた。
「あたしは、コーナッタ・D・シテー博士!泣く子も萌える天災天才科学者よっ!!」
彼女の名前を聞いて、ピン!ときた隊員たちが各々反応し始める。
「おいおい、コーナッタ博士って・・・」
「うちの軍にVIPでスカウトされた、あのコーナッタ博士?!」
「そんで、アレな発明ばっかしたため、お払い箱になった・・・とか」
「マジかよ!?まさか、お払い箱になった恨みつらみをぶつけに・・・(ガタガタブルブル)」
「そこっ、聞こえてるわよ・・!」
「ひぃ!ご、ごめんないーー!!」
ややキツい目とそこはかとない怒りの声を発する博士に、思わず謝る隊員たち。
しかし、博士はそれ以上は怒らず話を続けた。
「別に、イデア軍に恨みがあるから、来たわけじゃないんだかねっ!
・・・あ、これツンデレ台詞じゃないから」
博士の会話を聞いて、隊員のひとりが「あっ!」と何かを思い出した。
「そ、そう言えば、今のコーナッタ博士の所属は、我々と敵対する
“仮面結社軍”!!・・・み、みんな、にげてーーー!!」
あたふたする隊員の姿を見て、呆れながらも話を続ける博士。
「・・・確かに、今のあたしは仮面結社軍でお世話になっているわ(←迷惑的な意味でも)
でも、私個人としてはイデア軍には興味ありません。
ここに、私の最高傑作“フェイト”がいるのは分かっているのよ!
あたしのところに連れて来なさい。以上!!」
「・・・ざわ・・・ざわ・・・・」
博士の突然の謎めいた要求に一同困惑の顔を隠せない。
「“フェイト”って、最新作で俺のリンコの中の人が・・・」
「人の名前っぽいから、それは違うだろJK」
「ああ、あの子か・・・。笑顔の写真がオークションで18万にもなったという・・・」
隊員たちのどこかずれた予想を無視して、博士はナーナの元に歩み寄った。
「ナーナ・オーアルブルさん。隠しても無駄よ、さあ、早く!」
博士の強引な勢いに押されそうになるナーナであったが、すかさず言い返す。
「フェイトなんて子、ボクたちは全然知りませんっ!」
博士は一度目を閉じて、ナーナに向かってつぶやいた。
「ああ、ここでは“フェイト”では通じなかったわね。
・・・じゃあ、ここでの名前で要求しましょうか。
・・・ニャーニャ。あなたの後ろでおびえ続けるその子を渡しなさい」
「・・・えっ?!」
ナーナは、ニャーニャの名が挙がった事に驚きつつも、
いつの間にか自分の後ろで見つからないようにおびえ隠れているニャーニャに気づいた。
先ほどまでピコピコしていた耳と尻尾も、恐怖に震えていた。
ナーナは、ニャーニャの顔を見て振り向いて尋ねた。
「・・・ニャーニャ、あなたがコーナッタ博士の最高傑作とか、嘘だよね?」
しかし、ニャーニャのおびえる表情から、博士の言葉に嘘偽はない、と理解するには充分だった。
そして同時に、彼女が博士の元に帰りたくない、という事も感じ取れたのだった。
「コーナッタ博士、ニャーニャが元々あなたの側にいたのはなんとなく理解しました。
・・・けれど、だからと言ってニャーニャを返すわけにはいきません!」
博士は、ニャーニャのおびえた態度を見て怪訝そうな顔をした。
「“敵を欺くにはまず味方から”
・・・あたしを騙してまで、ナーナに接近して味方を装った後、
連れて帰る・・・なんて、都合のいい予想もしてみたけど、やっぱりそんなんじゃないみたいね。
まぁ、2人まとめて連れて帰ればいっか!」
「ボクを連れて帰る・・・、どういう事なの?」
博士がふと漏らした言葉に反応するナーナ。それに回答する博士。
「ああ、その事?
元々、フェイトはあなたとあなたの搭乗機モノケロースを奪取する任務を与えていたのよ。
でも、今の姿を見る限りは任務を放棄して逃亡したようね・・・。
その理由まではわかんないけど」
博士の何気ない爆弾発言に親衛隊一同は激しく抗議した。
「なん・・・だと・・・?!」
「俺たちのナーナ姫をさらおうとは、ふぎゃけんな!・・・じゃなかった、ふざけんな!!」
「だいたい、さっきはフェイト=ニャーニャを連れて行くだけ、って言ってたじゃないかーー!!!」
博士は、親衛隊たちのうるさい声を払いながら言い返す。
「“以上“っていったのはテンプレ文、もとい言葉のあやよ!
私の大いなる計画“エンドレス・オーガスト”の邪魔をしないでちょうだいっ!!」
博士の大いなる計画発言に、一同はほんの一瞬だけ声を失った。
恐ろしげな計画が何なのか、聞きたい空気を勝手に読み取った博士は、ご丁寧に説明を始めた。
「いいでしょう、特別に教えてあげるわ。この大いなる計画の事を。
”モノケロース”とバンシー・・・、イデア軍では”ディケロース”って呼んでるんだっけ。
このふたつの機体と、選ばれしふたりの適格者、すなわちナーナとニャーニャが揃えば、
時間と空間を制御できる力が手に入る!すなわち、あたしは神になれるのよっ!!
そして、その力を使って終わらない8月・・・すなわちエンドレス・オーガストを起こし、
永遠に夏のイベント群を満喫できる時空間を生成させるのよっ!
・・・どう?恐れ入ったかしら〜?」
親衛隊一同、すごいんだかすごくないのか分からない計画に頭を抱えていた。
・・・が、これだけは言える。ナーナ姫とニャーニャたんが、さらわれてしまう!
「そうはいかんざき!!」
「俺たち、いや全イデアが愛して止まない、アイドルふたりをさらうなんて許さねぇ!」
「見た目が幼女だからって、これ以上の対応次第では容赦しねーぞっ!!」
血気盛んな親衛隊たちを見て、くすりと笑う博士。
「面白いわ、じゃあ私の造った最強の2機に勝てたら、ナーナとニャーニャの事はすっぱり諦めてあげる。
・・・だけど、あなたたちが勝てる確率は、はっきり言って0%よ!」
博士は天に向かってパチン!と指を鳴らした。
「決まった!あたし、かっこいい〜♪」と思っているに違いない、ドヤ顔の博士の後ろには、
凶暴そうなワニを思わせるロボットと、悪人顔の妖精を思わせるロボットが出現した。
博士はすぐさま安全地帯らしき場所に逃げつつ、2機に指示を出した。
「クロックダイン!グリッドティンカー!そいつらをかる〜くのしちゃって☆☆☆」
「・・・ったく、コーナッタ博士よぉ、前置きが長すぎんだよ〜!なあ、ベル?」
ワニ型の機体、クロックダインの声の主がかったるそうに受け答えた。
「まぁ、その分大暴れすればいいじゃない、・・マル」
妖精型の機体、グリッドティンカーの声の主が冷静に対応した。
このクロックダインとグリッドティンカーは、コンピュータによる遠隔操縦で、内部コクピットは存在しない。
クロックダインの操縦者マル、グリッドティンカーの操縦者ベルは、
コーナッタ博士のネトゲ仲間で現在離れた場所で遠隔操縦しているのだが、
そんな事は、親衛隊およびナーナたちが知る由も無かった。
急いで、自分たちの機体に乗りフォーメーションを組む親衛隊。
「俺たちナーニャ親衛隊を甘く見るなっーーー!」
「ライブで培ったバリバリの体力とっ!!」
「ナーナ姫とニャーニャたんへの深い愛を見せつけてやるぜっ!!!」
果敢にクロックダイン&グリッドティンカーに挑む親衛隊。
しかし、その姿を見ても、2機=ふたりは全く動じない。
「さぁ、始めるわよ」
「あいよ!」
グリッドティンカーの胸部になる不気味な目玉のような部分が怪しく光った!
すると、宙にたくさんの格子状のマス目が発生していくのだった。
謎のマス目に少し気にしつつも、波状攻撃を繰り出す親衛隊たち。
図体の大きいクロックダインが優先的にその攻撃が浴びせられ、装甲は傷ついていったかのように見えた。
・・・が、その傷はいつの間にか塞がっていたのだった!
「なっなんちゅー、自己修復力なんだ?!みんな全力でいけっーー!!!」
親衛隊たちはクロックダインのタフさにビビりつつも、
各々の最大級の攻撃を繰り出した!
最後の攻撃が終わって、クロックダインの周辺は爆発に包まれた。
誰もが、勝利を確信した・・・が、
そこには何事も無かったようにクロックダインが立っていた。傷ひとつ無い姿で。
「雑魚の群れにしちゃ、まーまーやるじゃねぇか。
・・・だが、このボディには全く持って無意味だがなっ!!」
俺のターン!と言わんばかりに、マル=クロックダインは反撃を始めた。
重そうな巨体に似合わず、高速移動で親衛隊の機体を次々となぎ倒していくクロックダイン。
その攻撃は、腕の装甲をボロボロにしていくほどであったが、
それが気のせいであるかのように瞬時に完全再生されていく。
「こ、こんなに速いなんて・・・、どんだけの機動力があるんだよっ?!」
親衛隊のひとりが、叫びつつ吹っ飛ばされていった。
その言葉に答えるように、ベル=グリッドティンカーが言い放つ。
「高速移動?違うわ、これは言わば“瞬間移動”!!」
敵の数が減っていく状態を見て、マルがベルにかったるそうに言う。
「ベルよ〜、そろそろ片付けようぜ?」
「分かったわ、これで終いにするわ」
クロックダインとグリッドティンカーは、残存する親衛隊の機体にターゲットを向けた。
「うぉおおおおお〜〜〜!!会心掌ぉおおお!!!」
クロックダインの両腕から、激しい激流が放たれた!
「ハーフ・サウザンドニードル!」
グリッドティンカーの両腕から、大量の光の針が放たれた!
ナーナがおびえるニャーニャをやっと落ち着かせ、周囲を見渡すと、
そこには親衛隊の機体が山のように、積みあがっていた。
そして、クロックダインとグリッドティンカーは、戦場の支配者と言わんばかりに誇らしく立っていた。
ナーナはその光景を見て、何も言えず立ちつくしかなかったのだった。