第2話 「奈落の天使来たりて」

銀行強盗による、ビル火災の事件があった夜、
突然外へ飛び出したミー君を探しに、夜の街に向かったアウトン。
無事にミー君を見つけた時、誰かが騒いでいる声を察知した。
よく見てみると、成人男性3人と小さな子供が口論している姿があった。
アウトンは、近くの物陰に隠れて様子を見ることにした。


3人組の内、一番弱そうな外見をしている男が、子供に向かって言い放った。
「このガキぃー!こっちが大人しくしてると思って付け上がりやがってー!!
兄貴ぃ、ここで始末しちゃいましょか?」

3人組のうち、一番風格がある「兄貴」と呼ばれた男が答えた。
「待て、相手は子供だ。手荒は事はするな」

「なら、こいつを人質するのは・・・?」
3人組のうち、冷静そうな男が横から口を挟んだ。

「おめー、なかなか頭が切れるじゃないかっ!よし、そうしよう!!」
人質案を採用した兄貴は、子供の方をじっと睨み、
今にも捕まえそうなポーズを取った。

その姿に、子供は言い返した。
「私を人質にとっても無駄よ。・・だって、私両親とかいないし」
その声から、子供は少女である事がアウトンの側にも分かった。

少女の耳を貸さず、弱そうな男が少女の前に立ちはだかった。
「それでも、人質になってもらうぜ、おじょ〜ちゃん!
こっちは銀行強盗に失敗したから、金がほしくてしょーがねーんだよっ!!」

アウトンは、“銀行強盗”という言葉を聞いた途端、物陰から飛び出した。
「お前たち、昼間の銀行強盗かっ!!」

アウトンは、少女の前に立ちはだかった男を蹴飛ばした。
それを見ていた冷静そうな男が襲い掛かってきたが、これも瞬時に撃退した。

だが、残りの1人である兄貴と呼ばれた男はアウトンの背後を取った。
「誰だか知らんが、俺のかわいい子分を痛めつけた礼は受けてもらうぞ・・!」

銀行強盗の親分の手にはナイフを握られており、アウトンを刺そうと襲い掛かった。

「(・・・しまった、油断していた!)」
アウトンは慌てて正面を向いたが、攻撃をかわす時間が無いと思って、
手をクロスして防御体制をとるしかなかった。

“やられるっ!”
と思っていたアウトンは、
自分が刺されていない事に気づき、閉じていたまぶたを開けた。

すると、親分はなぜか気絶していた。
その近くでは、“白いモコモコした何か”がいた。
しかも、アウトンの攻撃で一時的に気絶していた、
冷静そうな男と、弱そうな男が目を覚ましていた。
「なんだ、こいつは・・?」「兄貴をボコったのお前かぁ?!」

ふたりはモコモコに襲い掛かろうとする・・が、
「ムゥーーー!」
逆にそのモコモコにコテンパにやられてしまうのだった。

側で見ていた少女は、そのモコモコに呼びかけた。
「ソラト、その人たちを警察に突き出しておいて」

「ムゥ〜♪」
“ソラト”と呼ばれたモコモコは、のびている銀行強盗3人組を軽々と背中に乗せて、
警察署の方へ向かっていった。

何があったのかイマイチ理解できないアウトンは、呆然と立ち尽くしていた・・・。

「私を助けてくれてありがとう」
少女は、アウトンに向かってお礼を言った。

少女の言葉に我に返った、アウトンは返事をした。
「ああ、当然の事をしたまでさ」


アウトンが落ち着きを取り戻してから、少女は今までのいきさつを教えてくれた。
先の銀行強盗3人組は、強盗に失敗してビルを放火した後、
逃走しているところを少女が発見して、警察に自首するよう説得していたら、
アウトンが近くで聞いていたように、人質にされそうになった・・、と言う。

「しかし、君はなかなか勇気のある子だな。
あんな危険な相手を3人に対して話しかけるなんて・・・」
「それは、あなたも一緒じゃないかしら?命の恩人さん♪」

ふたりが話していると、警察署の方に行っていたソラトが帰っていた。
「ムゥ〜ムゥ〜!」
「ちゃんと、行ってくれたのね、えらいえらい♪」
少女は、ソラトの頭をなでなでしてあげた。

「そう言えば、その子に助けてもらったんだっけ。
ありがとう、ソラト君だっけ?君が助けてくれなかったら、俺は今頃・・・」

「ムゥー!」
アウトンには、ソラトが
“フッ、お嬢を助けてくれた借りを返しただけさ・・!”
と言っているような気がした。

少女は、はっと気づきソラトを呼び寄せた。
「自己紹介がまだだったわね。私はメティー・エステール。
そしてこの子は、私の相棒の羊のソラトよ。こんごともよろしくっ♪」
「ムゥ〜」

メティーとソラトの自己紹介を受けて、アウトンも自己紹介をした。
「俺はアウトン・ゴーマン。近くの研究所で教授をしている。
そして、この子はミー君だ。よろしくな」
「ミ〜」

「近くの研究所・・・って事は、あなたはこの世界に平和を取り戻そうと研究している人なのね?」
「そうだよ、うちの研究所を知っているとは、光栄だな!」
「ええ、私も平和を取り戻そうと戦っているの」
「こんな幼い少女が、戦っているだなんて・・。
どこの所属かは知らないけど、子供に戦いを強いるとは・・・!」

怒りをあらわにするアウトンを、メティーはなだめた。
「私はどこの軍にも所属してないし、自分の意思で戦っているの。
それに私はこう見えても18歳なのよっ♪」

確かに言われて見ると、子供にしては体の成長具合がよさそうな事がわかった。
が、紳士であるアウトンは、ウブな表情で目をそらした。


「アウトン教授、実は頼みがあるんだけど・・・」
メティーは突然真剣な表情でアウトンに話しかけた。

「どうしたんだい?俺に出来ることなら力を貸すよ!」
「実は・・」

メティーは、近々接近するヴァリアント軍の「プラント落とし」の事を詳細に説明した。
アウトンは驚きを隠せなかった。
「な、なんだって・・?!そんな物騒なものが、地球に落ちてくるなんて!!
また多くの命が・・・・くぅぅうう・・!」

メティーはアウトンに落ち着いてもらうために説明補足をした。
「サンヘドリン軍の戦略拠点に落とされる日時・場所等は、
軍部ではばっちり判明しているから、避難自体は可能よ。
だけど、このまま放って置いたら、ヴァリアント軍の侵略拠点になってしまうわ。
そうすると・・・」
「ますます戦争が拡大して、多くの犠牲者が・・・、か。
くっ、俺はどうしたらいいんだ!?」

メティーはきっぱりとこう言った。
「だから教授、あなたにプラント落としを阻止して欲しいの。
私が用意した機体で」

アウトンは驚いた。
「俺が戦う・・?しかも君が用意した機体・・??」

メティーは少しだけ悲しそうな顔をしながら話した。
「多くの犠牲者を見てきたあなたには酷かも知れないけど、
それでもここで戦って阻止しないと、また多くの犠牲が出る・・」

「だが、俺はまた誰かに命を奪ってしまうかもしれない。
もう、ミー君の母親を奪ってしまう事をしたくはない・・・!」
アウトンには、自分自身がミー君の母親を殺してしまったかどうかは関係なかった。

メティーはまぶたを閉じ、冷静な口調でこう言った。
「なら・・、いかなる攻撃でも生命の命を奪う事の無い機体があったとしたら・・?」

アウトンは言い返した。
「そんな夢みたいな事が・・・」

メティーは彼の反論を聞き流したかのように、何やら呪文らしき言葉を唱えた。
「“奈落からの使者”よ
“黙示録のイナゴ”よ
“黒き太陽に似た者”よ
“生と死の暗黒力の奥底にひそむ神罰の魔蟲”よ

我が呼びかけに応じ現世に姿を現せ!
“CALL,APOLLYON!!”」


彼女の呼びかけに呼応するように、
上空に巨大な魔法陣が出現し、周囲は黒い煙に包まれた。
そして煙の中から巨大な虫を思わせるフォルムの人型兵器が、
腕組みをした姿で現れたのだった。

「な・・、なんだあの禍々しい雰囲気を放つ機体は?」
「彼は、私の“召喚”した“デモン・エクス・マキナ”の1体、“アポリュオン”よ」
「アポリュオン・・、黙示録出てくるアバドンのことか?何故こんなものが・・・」
「私の力をもってすれば、造作もないことよv」
「・・・君は一体何者なんだ?」

アウトンの質問を無視するかのように、メティー強引に話を進めた。
「このアポリュオンは、私の力によって、
“人間を含めた地球環境等を破壊せず、機械類だけに攻撃を加える”
にように設計されているの。だからあなたにぴったりだと思うわ」
「でもやはり、そんな夢のような事が・・・」
反論しようとしたアウトンだったが、メティーの言葉、
そして禍々しい外見ながら、どこかせつない雰囲気を帯びたアポリュオンの姿を見ていると、
なぜだかその言葉が嘘じゃない気がしてきた。

「無理して戦わなくてもいいの。でもプラント落とし阻止だけは・・・お願い、教授!!
あなたしか頼める人間がいないの。このアポリュオンは、あなたのような
“命の本質を魂の底から理解している者”しか操縦できないから」
「やめてくれ、俺はそんな高尚な存在じゃない・・!」
アウトンは、今まで救えなかった者たちの事を思い出しながら叫んだ。

「・・・全力を尽くしても、全ての命を救える力の持ち主なんて、どこにもいないわ。
それでも、あなたは“全ての命の事を憂い、幸せに生きて欲しいと願う心”を持っている。
これは単純な事だけど、多くの人間は持つ事ができずにいるわ。
自分や自分の範疇内の存在しか生きる事を認めず、他者を排除しようする者が多いこの世界で、
あなたは、自分と他者、人間と他の生き物という壁をつくらず同じ命の持ち主ととらえる、
・・・そんなあなただからこそ、このアポリュオンが相応しいのよ」

熱弁するメティーの姿に心動かされるアウトンだったが、
それでもどこか心の迷いがあった。
そんな時、そばにいたミー君がアウトンの足元によってすりすりしてきた。
「ミ〜ミ〜」
「その子もあなたの力を信じてるって」

ミー君の姿を見たアウトンはようやく決心した。
「分かった、君の言葉、そしてこのアポリュオンの可能性を信じてみるよ」


その後、アウトンは研究所に戻った。
研究所では、夜なのに急に外を飛び出していったアウトンを心配する研究員たちの姿があった。
アウトンは、皆に心配をかけてすまないと侘び、事のいきさつを話した。

「そんな夢みたいな話があるわけがないと思うが・・」
「だけど、教授が嘘をついているとは思えないわ」
「俺は教授を信じてみるぜ!」
アウトンの話を信じてくれる研究員が多くて、彼は嬉しい気持ちになった。

「皆、信じてくれてありがとう!
プラント落としの作戦決行日にはポイントに向かって撃破したい。
その間・・・、その・・・」
「ミー君のお世話・・、ですね?」

「なっ?!・・・ま、まさか俺が猫を飼っていた事を知っていたのか?」
こっそりミー君を飼っていると思っていたアウトンは、驚きを隠せず赤面した。

「研究所はおろか、ご近所さんからもしっかり知れ渡っていますよ」
「みんな空気を読んで気づかないふりをするのが大変だったくらいですし」
「教授が忙しい時には、ちゃんとミー君に餌やりしていたのは、私たちなんですからね!」
「ね〜、ミー君♪」

「ミ〜ミ〜♪」
ミー君は研究員たちももとに駆け寄り、普段から仲良くしている事をアピールした。

「そうか、皆すまなかった。こっそり飼っていたのは・・・、
自分が普段見せている姿とギャップがあるかな、
と思って恥ずかしいから・・・」

「そんな事ないですよ!ミー君と仲良くしている教授も魅力的ですよ」
「小さな動物も大切にする心を説いてくれたのは、教授ご自身じゃないですか〜!」
「何も恥ずかしい事なんてないですよ」

アウトンは、研究員たちの言葉に少し涙が出た。
「みんな、本当にありがとう・・・。
ミー君や君たちの為にも俺は、無事に帰ってくるからなっ!!」


そして、プラント落としの作戦決行日。
アウトンは、アポリュオンに搭乗してプラント破壊に向かった。
「今の俺は無力じゃない!
メティーちゃんから借りたこの機体と、
研究所のみんな、
そして、ミー君の想いが力となってくれる!!」


3機のプラントのうち、2機は破壊され、
残るユーラシア拠点へ向かった1機は破壊できなかった。

・・・が、
所属にとらわれず、
己を信じたアウトンの活躍で、最小限の被害に収まった・・・。

「全機は破壊できず、多かれ少なかれ犠牲者は出てしまった。
・・だが、悲しみにくれている暇はない!
ひとりでも多くの命を救うため、このアポリュオンで空を駆ける!!」


[END]