第3話 「終夏島での惨劇」

14年前の最期の戦いの舞台は、小島の点在する「海」だった。
「ラストサマー」と銘打たれた最終決戦は熾烈を極めたが、
その影響からか、世界規模の消失現象が発生した。
原因のひとつに、異世界軍が求めていた「全ての命の源」だったと言われる。

14年後、その「全ての命の源」が砕けて各地へ散らばったと言われる、
「命の欠片」を求めて、今も戦いが繰り広げられていた。


そして、今かつての決戦の舞台へ訪れる者たちがいた。
彼らは、中規模の戦艦でその地へ向かっている最中だった。
その当時、各陣営はあの「プラント落とし」の為に戦っていたのだが、
その戦艦は、ドサクサ紛れにやって来たように見えた。


戦艦内の展望室では、上官とその部下が外を見ながら会話をしていた。
「ここが、あの14年前の決戦の舞台だったんですか・・。雰囲気がそれらしいですな」
「それは違うぞ。かつては小島が点在する海に過ぎなかった、・・と報告書に記されている」
「では、どうしてこのような火山が・・・?」

戦艦の外から見える景色は、かつての小さな島々ではなく、
火山がもうもうと煙をあげている火山島へと変貌していた。

「科学者の調査結果によれば、
かの“世界規模の消失現象”に関係しているらしい。
14年前の人間が14年後の“今”飛ばされてきたのだから、
それと同じ原理で、海底火山が一気に噴火、その後隆起して、
短期間で島を形成することが出来た・・、と」
「しかし、こんな危険な火山島に本当に“命の欠片”が眠っているのでしょうか?」

「ラストサマー」の名を冠した終夏島(ラストサマーアイランド)と名づけられた島は、
まるで人を近づけない恐ろしげな雰囲気を漂わせていた。

「当たり前だ!そうではなくて、こんな危ない場所に皆が行くわけがない!!
最新鋭のセンサーが欠片のありかをしっかりと記しているから、心配するな」
「・・・そうですか」

そのとき艦内放送が、これからの作戦会議を行なう時間を知らせた。
一同は、会議室に集合した。


会議室では、一番偉ぶっているような気がしなくも無い議長が話を進めた。

「作戦内容をもう1度繰り返しますよ。
島に上陸後、命の欠片を全力で回収してください。
もちろん、我々の力だけではたかが知れています。
・・・そこで、彼らの力を借りるのですよ。“宇宙海賊軍”と」

彼らは、なんと宇宙海賊軍と秘密裏に協力して、
欠片の回収の効率性を上げようとしているのだった。
当然、上層部には秘密で独断で作戦を遂行しているのは言うまでもなかった。
だが、敵対している海賊軍に協力するのは、やや否定的だった。
ゆえに質問が多く飛びかった。

「議長!なぜ宇宙海賊軍なんぞと共同作業をしなければならんのですか?!」
「民間の連中でも良かったのに・・・」
「もし、海賊軍が裏切ったら、そうするんですか?」

議長は次々に出される抗議・質問を冷静に対処していった。
「まず、何故“海賊軍と組むのか・・?”という質問にお答えしましょう。
同じサンヘドリン軍や民間独立軍だと、
当然彼らにも手柄になってしまうからです。
その点、秘密裏に手を組んでいる海賊軍とならその心配が無く、
表向きは“我々だけの手柄”になり、確実な出世が見込める・・というわけです」

それを聞いた各人は「おーっ!」と歓喜の声をあげた。
この戦艦に同行している者のほとんどは、
サンヘドリン軍等に所属しているものの、いまいちいい地位ではなく、
出世の事ばかりを考えている者たちばかりだったのだ。

「次に、“もし、海賊軍が裏切った場合は・・?”への回答です。
彼らは海賊ですから、物欲しさに表向きは我々と協力しているでしょう。
ですから、状況いかんですぐに裏切る可能性は捨て切れません。
むしろ、裏切りやすい連中だと読んでいますがね・・・」
「なんだと?!裏切りやすいと読んでいながら、組むなんて自殺行為同前ではないか?!」
「・・それでも彼らの技術力を無視するわけにはいきません。
それに、彼らの動向を予め把握しておけば、
その情報を上層部に伝える事で、我々の手柄にもなります。
もちろん裏切った場合も考えていますよ。
“海賊軍と和平交渉を持ちかけたが、手痛く裏切られた。
ヤツラは、やはり人でなしのゴロツキどもだ!”と言えば、
サンヘドリン軍も民独軍も感情的になって、
我々を裏切った馬鹿な海賊軍と戦ってくれるでしょう。
つまり、我々も表向きだけ協力者でいればいいのです」

それを聞いた各人は「わぁっ!」と歓喜の声をあげた。
しつこいようだが、この戦艦に同行している者のほとんどは、
出世欲に駆られた連中ゆえに、このようなたちの悪い話も乗ってくれるのだった。

議長が腕時計を見ながら、何かを気にしていた。
「・・・ふむ、そろそろ島の反対側から来ると予定の、
海賊軍の皆さんが通信を送ってくる時間なのですが・・。
通信兵、今どうなっていますか?」

通信兵のひとりが答えた
「・・・まだ連絡がないようです」

議長はほんの少しだけイラついた。

各人がもめだす。
「・・まさか、やつらは早くも裏切ったのか?!」
「やはり海賊軍と組む、というのは問題だったんじゃ・・」
「へたすりゃ、こっちがヤツラに殺されかねないような・・?」
「それはいやだー」

議長が各人をなだめた。
「皆様、落ち着いてください。通信が遅れているだけかもしれません。
もう少しだけお待ちに・・」

通信兵のひとりが叫んだ。
「議長!ついに海賊軍からの通信がキャッチできました!」
「ほ、ホントか?!」
「ですが、何やら様子がおかしいのです。
館内放送で流してみますが、よろしいですか?」
「かまわん、早く流したまえ!」

海賊軍からの通信が艦内放送で流れるように切り替えた。
その通信は、ノイズ交じりでまさに危機感をあおる内容だった。

「こ・・、こちら宇宙海賊ぐ・・・。
正体不明n・・大型・・兵器に・・・られた。
戦艦の残り燃料が少ないため、我らは帰還する・・、さらばだ・・・」


戦艦内は同然、大騒ぎになった。
「これは一体・・?!」
「大型兵器だと・・」
「やつらの自作自演じゃないのか?」

議長は、想定外の展開に冷静さを失いつつあった。
「これは・・、何かの間違いですよ。
まかりなりにも彼らは、いっぱしの宇宙海賊軍ですから、どこぞの馬の骨なんぞに負けるわけが・・」

その時、謎の声が会議場に響き渡る。
「いいえ、海賊軍はやられちゃったのよ」

各人は、その声に驚き、その声の主を探した。
気づけば、会議室の中央に見たことの無い少女が立っていた。

「お嬢ちゃん?どっかから来たのか知らないけど、
ここは大人の大事な話し合いの場所ですよ?」
議長は、妙に紳士的に振舞って、少女に退室することを促した。

少女は、その言葉を聞いて笑いながら言い返した。
「“大人の大事な話し合い”?笑わせるわね。
海賊軍とグルになって、いけない事をしようとしているくせに。
ろくな大人じゃないわね・・ウフフ」

そして議長達は、少女の声を言葉を聞いた途端、青ざめた。
「お・・、お嬢ちゃんは、その話どっから聞いたのかな?」

少女は、不敵な微笑を浮かべながら、答えた。
「彼らが、ここで話し合いがあるからって行っていたから、聞いてたのずっと」
少女は、会議室の外で待機していた警備兵たちを示した。
その、兵たちの様子はどこかおかしく、ほほを赤く染めていた。

議長は、警備兵たちを怒鳴りつけた。
「お前たちか!部外者をホイホイと入れるようにしたのは!何をしている!!」

少女は、議長をなだめた。
「まぁまぁ、彼らには罪はないの。
・・・強いてあるとしたら、貴方達のような愚か者に同行した罪・・、かしら?」

それでも議長の怒りは収まらない。
「こ・・このガキをとっとと外へ連れ出しておけ!」

謎の少女の登場と、冷静さを失っている議長を見て、各人は唖然としていた。
それとは対照的に、様子のおかしい警備兵たちは、しっかりと議長に反論した。
「このお方に危害を加えるなら、議長言えど容赦はしないっ!」

反抗的な警備兵たちに議長はキレた。
「き、きさまらーー!もしや、そこのガキ、警備兵を洗脳したな!」
「そんなことしないわよ〜。
・・・ただ、“女の武器”で私のナイトになってくれただけ・・・v」

困惑する議長は、少女を問い詰めた。
「・・きさま、何が目的なんだ?金か名誉か・・それとも」
「貴方たちと一緒にしないで。目的・・、
それは、貴方たちのおバカな野望を潰す・・ことかしら?」

議長は、その言葉にハッとした。
「ま・・まさか、きさまが海賊軍を・・・!?」
「ご名答♪
そして、今度は貴方たちの番・・・よv」

少女の言葉と同調するかのように、戦艦中の警報がけたたましくなり、緊急放送が流れた。
「エマージェンシー!エマージェンシー!
上陸ポイント付近に、正体不明の大型人型機動兵器が出現!
繰り返す・・・・」


一同が、外を見ると、放送どおり、
巨大な人型機動兵器が姿を見せていた。
その姿は、全体的に蒼く、3つの角を生やし雄雄しき巨体を持っていた。

議長は、少女の方に向かって叫んだ。
「ま、まさか、あれが貴様が言っていた海賊軍を倒した機体なのか?!」

しかし、少女の姿はなく、各人はパニック状態だった。
様子のおかしかった警備兵も、元も戻ったらしく一緒になってパニくっていた。

もはや冷静さなど無い議長は各人に命令した。
「あ・・あの、デカブツを倒すんだ!総員、戦闘配置につけえぇーーー!!」

海賊軍が裏切った場合を想定して用意した戦力を総動員して、
謎の巨大兵器へ攻撃をしかけた。

議長は戦闘員に指示した。
「立て続けに攻撃し続けろ!そうすれば、やつも身動きが取れ・・」

しかし、議長の思惑とは裏腹に、
巨大兵器は攻撃の嵐の中でも、何事とも無く、こちらに少しずつ向かっていった。

議長はあせった。
「時間稼ぎだ!時間稼ぎをすれば、この戦艦の艦首砲を発射できる・・・!」

戦闘員たちは機体を変則的に動かし、巨大兵器を撹乱しようとした。
しかし、その巨大兵器が喋っているようしか聞こえない太い声ととも、
巨大兵器の胸部が赤く光った。
「・・・チカラノ違イガ分ラヌトハ、憐レナ・・・。
・・喰ラウガイイ、“バーンブレストスマッシャー”!!」

胸部から放たれる強烈な熱線が、一瞬にして数多くの機体を吹き飛ばしていった。
「ウギャーーー!!」「だ、脱出するしかないっ!!」「ウヴァーーー!!!」

だが、その一瞬の隙を議長は逃さなかった。
「い、今だ!艦首砲、撃てーー!!!」

戦艦から巨大なビーム砲が放たれ、巨大兵器の方へ向かった。
「直撃すれば、あの化け物ですら・・・」

だが、議長の目論見をよそに、
巨大兵器は不可思議な光の壁を出現させ、艦首砲をあっさりと防いでしまった。

最強の攻撃を軽々と防がれた、議長たちは恐怖するしかなかった。
その時、先ほどの少女の声が聞こえていた。
「・・今の攻撃を防ぎきれなかったら、
多かれ少なかれこの島にも被害が出ていたはずよね?
貴方たちは、“命の欠片”が欲しかったんじゃないの?
・・・まさに、本末転倒なおバカさんね。
やはり、貴方たちには欠片を持つ資格なんて・・ないっ!!」

その言葉と共に、巨大兵器の胸部中央が強い光を帯び始めた。
少女がつぶやいた。
「・・・この一撃が、新たな世界の幕開けとなるのよ」
巨大兵器が咆哮した。
「ウォオオオオ、“サンシャインクラスター”!!!」

胸部から生み出された、小さな太陽の如き光の球体が、戦艦を襲った。
その攻撃により、千間の術他の武装が破壊・もしくは仕様不可能になり、事実上無抵抗になった。
議長を始めとする全ての者が、一瞬の出来事を理解しきれず、真っ白になっていた。

巨大兵器は彼らに向かって言い放った。
「サッサト帰ッテ、愛シタ女ノ胸ニ泣キツクガイイ・・・!」

やっと、無抵抗だと気づいた議長らは、
かろうじて動力源に異常が無かった戦艦ですごすごと逃げ帰った。


アソコまでの激しい攻撃があったにもかかわらず、犠牲者はOだった。
とは言え、議長らの出世の妨害となった、
謎の少女こと、メティー・エステールは、国際的犯罪者として指名手配のリストに登録された。
・・・が、メティー本人が名乗っていなかった為、当然名前は分からず、
あの時の記憶が恐怖によってぐちゃぐちゃになっていたようで、
少女の姿ではなく妖艶な悪女風として書かれている為、
誰も少女当人を割り出すことは出来なかった。
くわえて、猛威を振るった謎の大型機動兵器こと、テリオンも指名手配機体のリストに登録された。
サンヘドリン軍での識別コードは「UNK-01 ザ・ビースト」。
偶然ながら、テリオンと同じく獣を表わした命名だった。
当然、操縦者が羊のソラトだったことも分かるはずも無く、
「ザ・ビーストの操縦者=謎の女」という認識になってしまった。

そして、奇しくもこの事件の影響で、サンヘドリン軍側にも、
海賊軍が集めている「命の欠片」の情報が知れ渡る事になった。


なお、議長を始めとする事件に関わったものは、
どうなったかと言えば、あの巨大兵器の言葉に従ってか、
おとなしく暮らしているそうな・・・。
それが良心からか、恐怖からかまでは知らないが。


[END]