第4話 「魔性の誘惑」

「終夏島での惨劇」と呼ばれた事件の被害者は、
出世目当てで集まった地球人たちだけではなかった。
彼らと秘密裏につるんでいた宇宙海賊軍もそうだった。

彼らの戦艦を襲ったのは、地球人側と同じく
識別コード「UNK-01 ザ・ビースト」、すなわちテリオンだと、誰もが思っていた・・・。
が真実はそうではなかった。
今回はその驚愕の真実を語ろう。

場所は終夏島。地球人側の戦艦が向かっていた側とは、
ちょうど反対側から宇宙海賊軍が島に向かっていた。

海賊達が乗っている戦艦内では、主に下っ端たちのテンションが高かった。
「ここであいつらを上手く使うことができりゃー、
俺たちの株もグン上がりよぉーー!」
「そのあと、ぱーっといい酒でも飲もうぜぇ〜〜☆」
「ヒャッハー!!」

地球人側が、出世に目がくらんだアレな連中だったが、
そんな連中とつるんだ海賊軍もだいたい同じ事情だった。
なお、海賊軍の上層部は、地球人と絡むこと自体、良しとしてなかったが、
もしその作戦が上手く行けば有利な展開になり、
仮に上手く行かなかったとしてもあまり損害にならない、と判断して黙認していた。

「こらっ、あんた達、少しは落ち着きな!」
このメンバー内で一番ちゃんとしている女艦長が、全員をしかりつけた。

「スイマセン、おかしら」
「ですが、出世できると思うとワクワクしてきて・・・」

艦長は少しだけ呆れた顔をして、こう言った。
「気持ちは分かるけどさ、まだ地球人どもと接触してないじゃないか」

艦長の言葉に一同は冷静になった。
艦長の言葉はまだ続く。

「もう少しで島に着くから、これが最後の作戦内容の通達だよ。
表向きは、地球人どもと協力をして“命の欠片”の回収。
そして、欠片を多めにあいつらに分けておくんだ。
そうすれば、あいつらはウチらを信用するに違いない!
・・・もちろん、巧妙に似せて作っておいた偽の欠片を渡すんだけどね」
「さすが、おかしらは頭いいぜー!!」
「しかし、もしあいつらがニセモンだと見破った場合は、そうします?」

艦長は作戦の盲点に気づき、うっ・・としたが、少し考えて答えた。
「あ・・あれだ、あらかじめ裏切りそうな顔した地球人をマークしておいて、
“アイツが偽物を混ぜていた姿を目撃した!”
とか言ってりゃ、仲間内でもめてウチらは怪しまれないんじゃない・・??」
「おかしら・・、さすがにそれは確実性に欠けますぜ」
「う・・うっさい!ともかく、欠片はウチらが出来る限りGETする!分かったかい?」
「「アイアイサー!!!」」

そうこうしているうちに、島の近くまで戦艦がたどり着いた。
・・が、それと同時に監視兵からの通信が入った。
「おかしら!近くで妙なヤツを発見しました」

外を見ると、巨大な人影のようなものが見えていた。

それを見た艦長は監視兵に文句を言った。
「ちょっとあんた、監視するのサボっていたでしょ?
この戦艦のレーダーはそんなに安物じゃないし、
そもそも肉眼で確かめられる距離になってから、ようやく発見ってどうなのよ?
・・・って?!」

艦長は外を目を向けたビックリした。なぜなら、
それがあまりにも衝撃的なものだったため、言葉を失ったからだ。
手下たち一同も、その巨大な人影の正体を見て衝撃を受けた。
「「で・・・でかい、ねーちゃんだ・・・」」

海賊たちが驚いたとおり、それは巨大な女性の姿をしていた。
詳細に言えば、ウサギの耳を思わせる長い頭部レーダーらしきものを装備していて、
3対の赤い翼を持ち、紫色の鎧を着込み、
腰らしき部分には虹色のヴェールのようなものを身につけていた。
そして、人間を思わせる情熱的な赤い長髪、
見る者全てを酔わせてしまえそうな妖艶な瞳、そして、柔らかそうな褐色肌。
その肌は人間顔負けの肉感を持っていて、
バストはボンっとしており、ウエストはキュッとして、ヒップラインはボンっとしている為、
まさにセクシーダイナマイツ!なボディラインだった。

こんな妖艶な姿をしているゆえ、男海賊たちは大いに盛り上がった。
「なんだか知らないが、すげーぜ!すげーぜ!」
「巨大女宇宙人に違いない!人間サイズの時はロリ体型になるんですね、わかりやす!!」
「俺、この作戦が成功したら、あのねーちゃんと付き合うんだ・・・!」

すると、その巨大な女性が海賊たちに向かって話しかけてきた。
「こんにちは、宇宙海賊軍の皆様。
貴方たちの目論見は、全て把握しているの。だ・か・ら、大人しく帰って欲しいの・・・。
素直な子には、イイコトしてあ・げ・るからvvv」

悩ましげな表情から発する妖艶な声を聴いた男たちはメロメロになってしまった。
「なんというサービスぅうう!!」
「WOW!エロ〜い!お持ち帰りぃ〜!!」
「俺の嫁!俺の嫁!!俺の嫁ぇええ!!!」

興奮する男たちに、女艦長は喝とツッコミを入れた。
「あんたら!あからさまな誘惑に乗るんじゃないわよっ!!
だいたいあんな大きいのと・・・、どうイイコトできんのよ?!」

艦長の言葉に、巨大美女は指摘を入れた。
「操縦者の私とならサイズの問題はないから、イイコトできちゃうわよ・・?」

海賊たちは、その言葉に衝撃を受けた。
「ってことは、このでっかいねーちゃんは、大型機動兵器・・すなわちロボだったのか!!」
「確かに、パイロットとなら無問題だな!」
「間違っても、中の人はヤローオチは無しだぜ?ヒャッハー!!」

はしゃぐ男たちを、女艦長は再び渇を入れた。
「あんたら、今回の作戦は出世がかかっていることを忘れてるんじゃないよ!
あの女ロボをさっさと倒して、命の欠片を集めるんだよ!!
・・・一番手柄を立てたヤツには、褒美としてウチが一晩付き合ってやるからさ」

その言葉を聞いた男たちは、目の色を変えて自身の機体に乗り込みに行った。

「「おかしらと寝るのは、この俺だぁーーー!!」」
かけ声と共に、海賊たちの機体“オーガ”達が
巨大女性ロボの周りを囲った。

「へっへっへ、ねーちゃん、いい体してんな〜」
「かわいがってやるぜぇ〜」
「少しずつ攻撃して脱がしてしまおうぜ!」

オーガ達は順々に女性ロボに近接攻撃を仕掛けてきた。
その時、彼女の体が7つに分裂した。その分裂した姿は、虹色に輝いていた。
どうやら、それは分身機能のようで、誰一人彼女に触れることさえ出来なかった。
しかも操縦者たちの様子がおかしくなっていた。
「は・・はだ・・」
「は・・だ・か・・」
「ヌードが見えぇ〜?!」

艦長は様子のおかしい海賊たちを怒鳴りつけた。
「あんたたち、まとめにやりあう気が無いのかいっ!!」

艦長の怒りっぷりを見て、女性ロボが会話に入ってきた。
「ウフフ・・私の分身は、ただの分身とは違うのよぉ〜v
7つの分身のうち、ひとつは私のヌードが拝めたり、拝めなかったり・・・♪」

艦長は少しキレた。
「エロいのは外見だけかと思ったら、戦闘能力までエロいとは・・!」

女性ロボは、この隙に攻撃を仕掛けてきた。
「私の抱擁で、無垢で無邪気なあの頃を思い出して・・・v
アイスバーストエンブレイスvvv」

彼女は、オーガの1体に向かって、左右の手を交差させて、
豊満な胸をより大きく見せるかのように、抱擁する仕草を取った。
すると、そのオーガの周りには冷気が発生して、凍りついた。

「ま、ママ〜〜ン!ママーン・・・!!」
そのオーガは凍りつき、操縦者の海賊は、まるで子供に返ったのようになってしまった。

「私はただのエロい女じゃないの、母性もあるのよv」
女性ロボは得意げに語った。

その姿を見て、更に気を悪くした艦長は檄を飛ばした。
「一斉掃射すんのよ!そうすりゃどれかにゃ当たるから、やっちまいな!!」」

「「アイアイサー!」」
艦長の命令を受けて、オーガ達は手持ちの銃器や
オーガ自身に内蔵されている射撃武器を構えて、一斉掃射を行なった。

銃撃の嵐の中でも、女性ロボは動じる事無く、妖艶な分身を併用して回避に努めた。
「ウフフ・・、多ければいいってわけじゃないのよね〜。
大きさ、スタミナ、そしてテクニックがないと、私を満足させる事はできないわよ?」

彼女は、なにやら含みがありそうな台詞をつぶやいた後、反撃の構えを取った。
「・・・ごめんなさいね、もう少し相手をしたかったけれど、時間がないみたい。
だ・か・ら、皆まとめて相手してア・ゲ・ルvv
闇より生まれし者は、再び闇に還る・・・、
ダークブラスター!!」

女性ロボの周囲から、暗黒の波動が発生して、オーガ達を飲み込んでいった。
「うわぁーーー!!」「何だか眠たいんだよ、おかしら〜!」「ルフラァ〜〜ン!!」

オーガ達は闇の力によるダメージで、戦闘続行が不可能になり、すごすごと戦艦に帰還して行った。

その姿を見て、完全にキレた女艦長は叫んだ。
「かぁーーー!!あんたら、そろいも揃って役立たずだね!!
こうなったら、この艦のミサイルをありったけ撃ち込むんだ!!!
少なくとも大きな爆風までは回避出来やしないだろ!」

その命令を受け、戦艦の操縦をしている海賊たちは、ミサイル発射の手順を踏んだ。

「ウチらに絡んできた、あんたが悪いのさ!さぁ、撃っちまいなっ!!!」
艦長の発射命令と共に、今にもミサイルが発射されようとしている中、
巨大女性ロボは、戦艦に近づいてきた。

「その攻撃で周囲に甚大な被害が出るというのに・・・。
貴方たちが欲しがっている、命の欠片も巻き添えを食うかもしれないのよ?」

女性ロボの訴えを艦長は退けた。
「知らないねっ!だったら、あんた自らが喰らって阻止しなさいよっ!!」

その暴言を聞いた、女性ロボは怒りをあらわにした。
「・・・貴方たちは、自分のエゴにまみれたおバカさんだわ。
やはり、貴方たちには欠片を持つ資格なんて・・ないっ!!」

その言葉と共に、巨大女性ロボの下腹部が強い光を帯び始めた。
「アリババと40人の盗賊も夢中になった、神秘の洞窟を見せてア・ゲ・ルvv
グランホールアブソーバー、オープンセサミvvv」

かけ声と共に、空中に突如巨大な穴が出現した。
その穴は、瞳を縦にした形で鮮やかな紅色をしていた。
その穴から発せられる地震の如き振動が、海賊軍の戦艦に伝わり動きを封じた。
操縦担当の海賊たちは、叫んだ。
「敵の謎の攻撃で、ミサイル発射が出来ません!
しかも・・・、戦艦の燃料がどんどん減少していきます!このままだと・・!!」

艦長は燃料メーターの低下を見て叫んだ。
「まさか、今の攻撃が燃料を吸い取っているというのっ?!!」

その頃、戦艦に帰還した海賊たちは、なぜか恍惚の笑みを浮かべて、ぼ〜っっとしていた。

攻撃をする女性ロボは、ある事に気づいてはっとした。
「あらあらいけない、全部吸い取っちゃうと、お帰りいただけなくなるわね」
その言葉と共に、紅き穴は閉じられ吸収攻撃が終了した。

海賊軍の戦艦は、今の吸収攻撃で武装を展開させる為のエネルギーが空になり、
実質上戦力ゼロになってしまった。その事を知った操縦手が慌てふためいた。
「今の攻撃で、本部に帰還する程度の燃料しか残されてません!
おかしら、どうしますか?!」

それを聞いた艦長は、即断した。
「くっ、帰りの燃料くらいしかないんじゃ、島に上陸する事はできても、
欠片回収が極めて困難になっちまう!
悔しいけど、このまま全力で本部へ帰還するんだよっ!!
・・・覚えてなさい!この淫乱女っ!!」

艦長命令どおり、海賊軍の戦艦は一目散に逃げ去った。

「・・フフ・・、ごちそうさま・・・vvv」
巨大女性ロボは、舌を出して口周りをなめる仕草を取った。
その直後に、島の方向を向いた。
「あとは、・・・地球人の皆様ね!」


こうして、海賊軍を退けた女性ロボこと、ベイバロンの操縦者である、
メティー・エステールは、終夏島の反対側を上陸地点にしている、地球人側の戦艦の方へ飛んでいった。

ベイバロンの接触は、宇宙海賊軍が初めてであり、地球人側が先に接触したのは、
対をなす、ソラトが乗るテリオンであったのは、先に話したとおりである。
その為、サンヘドリン軍に知られるのはずいぶんあとになった。
なお、ベイバロンの識別コードは「UNK-03 ハーロット」。
ハーロット(Harlot)は「娼婦」の意味で、奇しくもベイバロンの一面を的確に表わしていた。
が、彼らはバイバロンの本質には気づいていないようだ・・・。


余談ではあるが、ベイバロンと交戦した海賊軍はどうなったかと言えば、
男たちはあの妖艶な美女っぷりにメロメロになったままで、
女艦長は憎きあばずれ女をギャフンと言わせる為に、
必死になってベイバロンを探しているものの、
きまぐれさも兼ね備えている彼女を捕らえる事はできずじまいらしい。


[END]